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No168.Dog Ear #18(死の狭間にみる生)

2011/02/13 22:41

まにドラマを観て目頭が熱くなることはありますが、書籍を読んでここまで涙したのは、初めてかもしれません。故戸塚洋二さん著、『がんと闘った科学者の記録』を、皆さんにご紹介したいと思います。




戸塚さんは、ニュートリノに質量があることを世界で初めて発見した物理学者です。以前から、「最もノーベル賞に近い日本人」との下馬評を受けながらも、戸塚さんの恩師、小柴さんが先にノーベル賞物理学賞を受賞し、戸塚さんは自身で賞を手にすることなく、2008年に末期癌で逝去されました。

戸塚さんは、闘病生活中にもかかわらず、科学や植物、教育、宗教などに対するお考えと、ご自身の癌進行の過程をブログに綴られており、その一部を、立花隆さんが編纂して出版したのが、この書籍です。

健康体の私にとって、余命数ヶ月を宣告された「自分の姿」を想像することは難しいのですが、余命数ヶ月を宣告され、考え、思い、信じ、行動された「戸塚さんの姿」を想像することはできます。うーん、結局、他者の経験を自分に移しかえることなんて、畏れ多くてできないんでしょうかね。

いくつか印象に残った箇所を引用します。

以下、「続きを読む」リンクをポチっとクリックして下さい。
(RSSリーダーなどで表示されない方は、サイトまで見に来てね。)


われわれは日常の生活を送る際、自分の人生に限りがある、などということを考えることはめったにありません。稀にですが、布団の中に入って眠りに着く前、突如、

・自分の命が消滅した後でも世界は何事もなく進んでいく、
・自分が存在したことは、この時間とともに進む世界で何の痕跡も残さずに消えていく、
・自分が消滅した後の世界を垣間見ることは絶対に出来ない、

ということに気づき、慄然とすることがあります。


私ももちろん「今後の事も恐れるばかり」の時期があり、今も無論あります。この「恐れ」に自分なりの対処することに必死になって努力しています。

まず、根底にある考えは、「恥ずかしい死に方をしたくない」が出発点でした。

弱い人間ですから、やることは簡単です(難しいですが)。

1) 「恐れ」の考えを徹底的に避ける。ちょっとでも恐れが浮かんだら他の考えに強制的に変える。
2) 「自己の死」の考えが浮かんだら他の考えに強制的に変える。死は自分だけに来るのではない。すべての人間にくる。年齢にもよるが、死の訪れは、高々10~20年の差だ。その間の世界がどうしても生きて見なければならない価値があるとは思わない。
3) 自分が「がん」になった理由はすべて自分にある(私の場合は)。自分以外を決して恨まない。
4) まだできなくて困っていることが一つ。妻につい愚痴を言ってしまい、彼女を精神的に追い詰めてしまう。これを克服しなければ。


悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思つて居たのは間違ひで、悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きている事であつた。

(正岡子規『病牀六尺』からの引用)


話は変わりますが、脳のむくみによる意識を失うことは、死ぬことにとって楽な方法ですね。しかし、自意識なしに死ぬことはベストだと必ずしも言えません。やはり七転八倒して死んだほうが良いような気がしました。

(再発性の脳腫瘍にかかり、数日間意識を失った後のコメント; いやはや、何とも脳みそを使う職業人らしい)


実験物理科学分野の研究者というのは、若いときにはペシミストでもやっていけます。しかし、グループを率いるリーダーになると、あらゆる場面でオプティミストの面を表面に出さなければなりません。この癖が身についてしまい、かなり悲惨な状況でもよい面を敢えて見ようとしていると思います。

(戸塚さんはブログ上で、ご自身の腫瘍マーカーの経年推移や、腫瘍画像を公開し、つぶさに分析されています。普通、自分をここまで客観視できないですよね。)


実は、また本を買ってしまいました。今日届いた本は、ガリレオの「新科学対話」(岩波文庫)とアインシュタイン「The Principle of Relativity」(Dover)、それにニュートンの「The Principia」(PB)。
(中略)
生きられる時間が限られているのに無謀だ、と思わないで下さい。本などに没頭していると、限られた有限の時間が無限のように感じるのです。

(これら書籍の他、近年読んだ書籍として、ホイジンガ「中世の秋」(中公文庫)、ヴェーゲナー「大陸と海洋の起源」(岩波文庫)、ユクスキュル/クリサート「生物から見た世界」(岩波文庫)、ディラック「一般相対性理論」(ちくま学芸文庫)、ワインバーグ「電子と原子核の発見」(ちくま学芸文庫)、デービッド・リンズレー「Uncertainty」、ウォルター・アイザックソン「Einstein」(Simon & Schuster)、アラン・グリーンスパンの「The Age of Turbulence」(Penguin Press)の寸評を披露しています。抗がん剤の副作用で、頭が朦朧とすることもあるでしょうに、いったいどこからこんな意欲がみなぎってくるのか、ただただ脱帽してしまいます。)




余談ですが、なぜこの本を読んだかというと、実は戸塚さんと私の父にいくつか接点があったからです。自分の親にもかかわらず、たまに私には父のことを理解できないことがあり、戸塚さんの本を読めば、父のことも少しは理解できるようになるのではないか、という期待を胸に、この書籍を手にとったのです。

戸塚さんと父は旧友で、同じ大学体育会空手部に所属していました。大酒飲みで、ちっとも勉強せず(おかげで戸塚さんは1年留年、父は4年!も留年しました)、暴れん坊なところも似ています。
そして、戸塚さんは2000年に大腸がんの手術を、父は2005年に食道がんの手術を受けています。
戸塚さんが亡くなった1ヵ月後、私はMBA留学から一時帰国したのですが、その折、父が「戸塚も、とうとう逝っちまったよ」と肩を落としていたのを、今でも良く覚えています。

どんな偉人であっても、強くもあり、弱くもある。そして、自己のコントロールを超えたところで、自分の運命が決まってしまうこともある。ただ、やりたいことを徹底的にやり通す、そういう日々の積み重ねの上でしか生きられないんだろうな、と率直に感じました。

参考: 書籍の元ネタとなった戸塚さんのブログ http://fewmonths.exblog.jp/
(書籍の方がコンパクトにまとまっていて、読みやすくなっています。が、科学・教育などのテーマは書籍に収録されていませんので、ご興味ある方は補完的にブログも目を通されると良いでしょう。)



Dog Earとは?
英語で、書籍のページの端っこを折り曲げることを、Dog Earと言います。書籍や人とのコミュニケーションを通じて出会った、心に残る言葉を書き留めておくシリーズです。

Dog Earシリーズの過去履歴

第1回(経験): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-18.html
第2回(資産と遺産): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-20.html
第3回(情熱): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-21.html
第4回(経営): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-23.html
第5回(創造と逆境): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-42.html
第6回(幸せな敗北者): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-54.html
第7回(傾聴): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-59.html
第8回(最後の授業): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-63.html
第9回(抱負): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-76.html
第10回(言葉と愛情): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-92.html
第11回(不道徳教育): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-102.html
第12回(交渉): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-104.html
第13回(結晶化): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-147.html
第14回(市民): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-151.html
第15回(変身): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-159.html
第16回(アイディア): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-163.html
第17回(翻訳): http://kicosj.blog118.fc2.com/blog-entry-167.html




コメント

  1. HAL909 | URL | LEZYcRIY

    Re: Dog Ear #18(死の狭間にみる生)

    興味深い本の紹介をありがとうございます。ところで、「選択の科学」シーナ・アイエンガー著 コロンビア・ビジネス・スクール 特別講義 お読みになりましたか。

  2. KicoS | URL | -

    Re: Dog Ear #18(死の狭間にみる生)

    HAL909さん

    コメントありがとうございます。

    アイエンガー教授の『選択の科学』は、年末年始にグータラ過ごしながら(笑)読みました。彼女は私が在学中には教鞭を執っていなかったので、受講できず残念です。

    が、個人的には『影響力の武器』の方が好きですね。事例の豊富さもありますが、それ以上に体系的にまとまっていて読みやすく、頭に残りやすいためです。

    まぁ、いずれにしても海外では有名でも、まだまだ日本では無名に近い教授の著作が、これからもどんどん国境と言語の壁を越えて流入してほしいなぁ、と思います。

  3. HAL909 | URL | LEZYcRIY

    Re2: Dog Ear #18(死の狭間にみる生)

    「影響力の武器」は名著ですね。

    本文に関連して、「老人の美しい死について」
    朝倉喬司著 をちょうど読んでいました。
    本書には三人の老人の生と死が描かれています。

    生きるということについて考えさせられていたときに、(死の狭間にみる生)、と書いていらっしゃるのに出会って不思議な感じがしたのでした。

  4. KicoS | URL | -

    Re2: Dog Ear #18(死の狭間にみる生)

    HAL909さん

    『老人の美しい死について』は、HAL909さんのご紹介で初めて知りました。
    なかなか読み応えありそうですね。

    私がこのブログの記事タイトルを「生の狭間にみる死」ではなく、「死の狭間にみる生」にしたのは訳があります。
    戸塚さんの本/ブログを読んで思ったのは、

    人間はぼんやり生きている時には、死を物凄く実感持って体感することはできず、

    むしろ死が切迫している時に、自分が生きていることを実感する

    ということです。残念ですけど。
    そういう意味で、日々生きるというのは何とも難しいなぁ、と思うわけです。

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